『極道と呼ばれた男』
2009.07.15 Wednesday 08:53


2003年1月20日 自身のホームページに記載した『日記』の再掲です。 これまで、ネットに記載した多くの記事やその思い出、紙に残されたのもではないこれらのものが、ある時、一瞬に消え去ることがあります。昔の私の書いたものですが、思いで深いものがあり、ここに添削し再掲させていただきました。拙文、恥ずかしく思います。ま、ブログですから。

写真: 白磁豆皿

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『極道と呼ばれた男』

食器を作ろう、と考え始めたのにはあるきっかけがあった。

 もう随分昔の事になるが、その男は僕の仕事場に土足で上がり込み僕の帰りを待っていた。その仕事場は、友人にいわせると『インドの阿片窟』であり、近くの絵描きの感覚では、『ゴッホの家に似ている』のだそうだ。要するに並みの仕事場ではなかった。

 ある日、外に高級車が止まり、運転手が待機していた。男はゴルフ帽を被り、もう一人の着流しの男となにやら訳ありげな雰囲気で、布に包まれた一つの器を取り出した。それは以前、確かに自分の作った作品であった。しかしそれは、男達にとって不似合いな作品であるかのように思われた。どうやら、いけない人達のようなのだ。彼らはそれを注文する為に僕の帰りを待っていたのである。

 それから10数年間この男達との奇妙な、そして実に不思議な関係が続くとは、そのとき予想にもしなかった。このときぼくは男達に、この器を何に使うのか尋ねてみた。そうすると彼らはこれは『筒の向こうになる』、という。男達は『わしらは料理の方のもんや』と確かに言った。しかし、『わしらはその筋のもんや』としかぼくには聞こえなかった。まずいなぁと考えていた。関わり合いになりたくなかったのだ。

 注文は貰ったが器はなかなかできなかった。それがどうした事か、懐具合が下降線をたどり、いよいよ仕方なく仕上げた作品を持って指定された場所に届けたのである。金は即金で支払われた。額も並みのものではなかったのである。

 器は十個ずつ桐箱に入れ、袋紐で結び、落ち度のないように届けた。どうやらそれが気に入られたらしい。それから暫くすると、男はこの轆轤場に頻繁に出入りするようになる。ある時、婦人誌を見ていると、「そんなもん見て器、作れまっか」と、それ以来、料理屋通いが始まった。同席するのは決まって「その筋」の者であった。なかには側にいるだけで殺気すら感じる者もいた。男が、「この人はまじめな人や」と言うと、手品のように殺気がスーと消えた。ひっきりなしに政治家から携帯が入る金貸しもいた。僕はこの時、興味を示さないように教えられていた。このような緊張した食事が10数年続き、ぼくは食器のイロハを、仕込まれたのである。

 今日はその男の七回忌である。懐かしい思い出だけが波のように打ち寄せてくる。いつも『極道してまっか!』と言って男はぼくの仕事場に入ってくるのである。どうやらぼくは、まじめな『極道』だったらしい。男がぼくに教えた事は、確かに本質を突いていた。器も料理も文化だと語った。しかし、こういう物がいい、などとは言わなかった。ただ一度だけ、『器と言うものは、なかに盛られたものが収斂されていくものでなくてはならない』、と語ったことがあった。食器作りはそのときから始まったように思う。

 さて、真の「極道」とはいったい誰だっただろうか。彼は誰からも『おやじさん』と呼ばれていた。またそのように呼ばせていた。そう呼ばれるのが嬉しかったのである。ぼくは意地でも本名でしか呼ばなかった。だが、もう僅かな命と知った時、一度だけ『おやじさん』、と枕もとで呼んでみた。ピクリ、と男は動いた。

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お世話になったKさんを偲び『日記』というかたちで書いたものです。命日の日に書き上げられたのもなにかのご縁と信じます。冥福を祈りながら。
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